" Mr. Brian  "


「TAK、明日から頼むぞっ!」

ある日、会社の上司に呼ばれ、突然こう言われた・・・。
「へっ?!・・・何を・・、頼むんですか?」
「だから〜、ブライアンをしばらく、お前んトコで頼むって事だ・・・。」
(しばらく?・・ブライアン?・・頼む?・・何それ・・??)

ブライアンというのは、ウチの会社のアメリカ工場から、少し前に研修に来ているアメリカ人で
先週まで他の部署で研修していたのだが、今週からウチの部署でしばらく研修させるという事らしい。
一応私は、世間一般で言う現場主任という立場にあるのだが、
(いい加減な私を、そんなモンに選ぶ会社もどうかと思うが・・。)
私に、そのアメリカ人の面倒を見てくれというのだ。

もちろん、私は英会話など出来る訳は無いし、ブライアンも日本語は全く喋れない。
そんな状態で、「ブライアンにお前のトコの仕事を色々教えてやってくれ!」・・等と、普通に
その上司は言ってくるのである。 (会話も出来ないのに、ど〜やって教えるっつ〜の?)
全く、いい加減な会社だと、つくづく思い知らされた・・。
他の部署は、海外出張する人もいるので、それなりに英会話が出来る人もいるが、
ウチの部署は、海外出張とは無縁の部署なので、英語が出来る人間は居ないのである。
まあ、不本意ながら、決まってしまった事はウダウダ言ってもしかたないので、腹をくくる事にした。

次の日、ブライアンがウチの部署に来た。
体格が良く、腕にタトゥーが入った、アメリカ映画によく出てくる感じの男だった
「オッケー、ボス。 チョイト、カワイガッテヤリマスゼ! Ha-Ha-Hah- !!」等と言いながら、
指をポキポキ鳴らして登場する用心棒のような役柄がとっても似合いそうな感じである。

しかし、見た目とは裏腹に、ブライアンはとてもジェントルマンだった。

とにもかくにも、英語が喋れない私と、
日本語が喋れないブライアンとの一週間が始まったのである・・・。

とりあえず、変に、カッコつけて喋ろうとせずに、知ってる限りの単語を並べて、その間に、
「and」とか「before」とか「after」とか「this」とかをくっつけて、喋ってみた。
すると、何とか意味は通じているようだった。(お世辞にも、英会話とは言えないが(^_^;) )
人間、やってみると意外に、ど〜にかなるモンだ。

2〜3日も、そういうやり取りをしていると、不思議だが、
自然にこっちも「Oh!」だの「Yeah!」だの「Really?」というような、
リアクションが自然に取れるようになってしまうのである。

日本でこんな光景を目にするのは、海外のTVショッピング番組だけかと思っていたが、
まさか、私が同じようなリアクションをするようになるとは夢にも思わなかった。

「Hey、マイク!」
「Hi!ジョージ!」
「どうしたんだい、ジョージ。何かイイ事でもあったのかい?」
「分かるかい?マイク。実はコレを買っちゃったからなんだよ。」
「ジョージ。それは一体、何をするモノなんだい?」
「見て驚くなよ〜。驚きすぎて、目ん玉落っことさないように気を付けろよ〜っ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジョージ、わざとらしく実演中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「ワーオ!スゴイじゃないか!ジョージ。ところでコレ、幾らするんだい?」
「スゴイだろ!ところが値段はもっとスゴいんだぜ! 何と3000円さっ!!」
「何だって?!3000円? 30000円の間違いじゃないの?」
「ホントだよ。ホントに3000円なのさ。 ビックリだろ〜?」
「本当かい? 信じられないよ〜っ! コレだったら10個まとめて買っちゃうよ〜っ!!」

・・・・・・等というようなTVショッピングにありがちな光景を、私、自らがやっているのである。
周りから見ていた同僚達からすれば、そうとう寒い光景だった事だろう。
もちろん、ここまでオーバーでは無いが、近いモノがあったかも知れない。
こういうモノは流暢に英会話が出来る人間がやると、非常にカッコイイのだが、
カタコト英語の私がやると、違和感アリアリで、なんともいえない雰囲気を漂わせてしまうのである。


ブライアンが喋る時も、聞き慣れない単語が出てくる度に、
「○○○○? What's mean?」と私が聞くのだが、
説明の中に又、分からない単語が出てくるので、更に「What's mean?」の繰り返しで、
結局、最初に何の単語の意味を聞いたんだか、すっかり忘れてしまう事も多々あった。
何となく、内容は分かるのだが、単語の意味が分からないのでは話にならない。
英語自体は、結構好きな科目であったが、
もっと真面目に勉強しておけば良かったと思った。
学生時代は、「こんな単語なんか覚えてても、実際の英会話には役に立たね〜よ!」
ぐらいに思っていたが、意外と役に立つようだ・・・。

あと、最初に休憩する時に、彼を休憩室に案内したのだが、
私が靴を脱いで部屋に上がろうとすると、ブライアンが困った顔をした事があった。
ブライアンは、厳重に靴ヒモを縛ったワークブーツを履いていて、
靴を脱ぐのがとても大変そうだったからである。
慌てて、靴ヒモを解こうとするブライアンに、
「sorry! Let's take a rest there!」と言って、違う休憩所に案内する事にした。

日本人にとって、部屋に入る時に靴を脱ぐのは常識だが、
アメリカ人は部屋の中でも靴を脱がないという事をすっかり忘れていた。

改めて、生活習慣の違いというモノを肌で感じた瞬間であった。

そんなこんなで、1週間はあっという間に過ぎ、ブライアンはアメリカに帰っていった。

帰り際、「サンキュー、TAK! オマエト シゴトガデキテ、タノシカッタヨ!」
「コンド、アメリカデ、オマエト シゴトガ デキルヒヲ タノシミニシテイルゼ!」
と言ってくれたのが嬉しかった。
それが、彼の本音だったのか、ただのリップサービスだったのかは分からないが、
私も、同じ気持ちだったので、その言葉が、彼の本音だったと思いたい。
もちろん、ブライアンは英語で喋っていたので、上の翻訳が正しかったのかどうかは
定かではない。 少なくとも、私にはそう言っているように聞こえたのである。


ただブライアンは、一つ大きな勘違いをしていた・・・。

私の部署は、ブライアンのいるアメリカの工場とは無縁の仕事内容の為、
私が、アメリカに行き、彼と一緒に仕事をする事は無いという事を・・・・。


2006.DEC TAK♪

 


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